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バター不足解消をめぐる不思議な規制改革

バター不足解消をめぐる不思議な規制改革が、内閣府の規制改革推進会議で検討が進められています。酪農家からは「今の制度でまったく問題はないし、困ってもいません。なんであんな意見が出てくるのか、正直言って疑問です」、「バター不足の解消どころか不足を日常化させるだろう」という疑問の声も上がるなか進められている不思議な規制改革?この規制改革推進会議の答申等についてまとめてみました。

 

 

規制改革を行うとバター不足が日常的に発生する?

宮崎県でおよそ200頭の乳牛を飼うLさんはまだ30代後半の若手酪農家。搾った生乳は大手乳業メーカーの乳製品になるほか、県内のプライベートブランドとして有力スーパーのミルク商品にも採用されている優良な生産者です。彼が「不思議な規制改革」と話すのは、内閣府の規制改革推進会議が検討を進めている、酪農のあり方に関する制度改革の答申。<http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/publication/160519/item2-4.pdf>。

酪農家の所得向上や、バター不足の解消を目的とした改革が提案されています。この「不思議な規制改革」といわれている同会議の答申を簡単にまとめると、「現状の制度では、多くの生産者が指定団体に営業や価格交渉などの販売業務を委託せざるを得ない。現状の指定生乳生産者団体制度の是非、現行の補給金の交付対象の在り方を検討する」、「バター等一部の乳製品は国家貿易で輸入されているが、不足がたびたび起こる。その原因や実体が関係者間でも十分に把握されていない。そこで、国家貿易で輸入した乳製品を国内の業者に売り渡す際に、どのように流通するのかを確認し、計画が履行されるように確認する」というものです。しかし実際には、その規制改革が救うべき酪農家自身が、困惑の声を上げまた、バター不足問題に関しては「それどころか不足を日常化させてしまうかもしれない」という声も上がっています。

メディアは偏った報道で世論を操作?

 

自民党の農林部会長を務める小泉進次郞氏は、10月14日の農林水産業骨太方針策定プロジェクトチームの会合後「指定団体制度は50年続いた制度で、このままでいいと思っているのは指定団体、党、現場でひとりもいないと思う。(中略)制度を守るということではなく、酪農家を守ること」と語ったといいます。ところが乳業関係者、指定団体の関係者、そして「守る」対象である酪農家の多くは逆に疑問の声をあげているのです。

この問題を伝える多くのマスメディアは、「農協の独占を許すな」「規制緩和で民間の活力を導入」というような一般庶民に受けそうなキーワードを使い、世論を偏った報道で操作しようとしていると一部の間では言われており、乳業関係者が「規制改革が進めば、むしろ国民にとって重要な基本的食料である牛乳製品の信頼性を脅かす自体に発展するだろう」と断言しています。このままいくと「必要のない改革」によって、乳製品にかかわる多くの存在(消費者含め)が不利益を被る可能性があるといわれているのです。規制改革推進会議は2016年度前半までは「規制改革会議」という名称で検討を進め、5月19日にその答申を発表。書かれているのは「指定生乳生産者団体制度の是非・現行の補給金の交付対象の在り方を含めた抜本的改革」というものでした。

バター不足は農協が独占?

実際に規制改革推進会議の文書を読むと、バター不足問題を抜本から解消できる特別な提案が書かれているのではなく、「バター不足の実態が実際どうなっているのか、キチンと把握しますね」という程度のものにすぎません。バター不足問題は消費者にとって実に切実な問題でこれから迎えるクリスマスやバレンタインにはなくてはならない存在です。「農協の独占・・」「規制緩和で・・・」というようなキーワードが新聞の見出し等に出れば「なんだ、バター不足はまた農協が独占してるから起こるのか」というような印象を国民が持つかもしれません。農協批判は国民にウケやすく議論の火をつけやすい“火種”だからだです。その方が規制改革推進会議も改革の論議が進めやすくなり、むしろそれを期待しているのかもしれません。「生乳の流通は農協が独占している」と聞くと、実情を知らない人は「指定団体って既得権益の塊で、解体したほうがいい組織なんだ」と思うかもしれませんが、この指定団体の正式名称は、「指定生乳生産者団体」といい、生産者側の組織であり、生産者自身が自分で行うととても大変で難しい役割を替わりに果たしてくれている、酪農家にとってはとてもありがたいなくてはならない団体なのです。

乳業メーカーと対等に渡り合うため

牛乳やバターなどの原料である、殺菌前の牛の乳「生乳」は、酪農家の下で毎日一定の量が生産されますが、腐敗が早く貯蔵性がとても低い。おコメなら低温貯蔵すれば1年経っても品質がそれほど変わりませんが、「生乳」は冷蔵しても数日で微生物が繁殖、飲用に適さなくなります。だから搾乳後は短時間のうちに乳業メーカーに引き渡す必要があリります。このような特性の中、小さい酪農家が乳業メーカーに売り込みや価格交渉などするのはとても難しく、他の食品も同様今や買い手が圧倒的に力を持ち価格交渉をしても、安く買いたたかれてしまうのは目に見えています。また、酪農家1軒ごとの生産量には幅があり、小さい規模の酪農家では、生乳をタンクローリー1台分満たせない時もあります。そこで、その地域をタンクローリーが集乳して巡回、数軒分を集め十分な量にしてから、乳業メーカーに引き渡す。こうして十分な量を一定量確保できなければ乳業メーカーと対等に渡り合えません。そこで、酪農家たちが生産行為に集中できるよう、複数の酪農家から生乳の販売を受託し、乳業メーカーと一括して交渉する窓口として機能する指定団体が生まれました。価格交渉だけではなく、集乳の手配をし、大きなロットにまとめるのも指定団体の機能のひとつ。実はこうした機能は、酪農生産者たちががずっと求めてきたもので「生産者は、小さな生産単位では持てないそうした機能を求めて、自分自身の経営判断として指定団体への参画と利用を決めているわけです」と、ある乳業関係者は言います。また、「生乳」の用途は飲用乳だけでなく、生クリーム、脱脂粉乳、バターなどの加工用もありそれぞれで価格も違います。そうした割り振りを調整し、乳業メーカーから支払われた生乳の代金や補給金をプールし、農家に送金する窓口でもあります。ちなみにある新聞報道では「全国の10農協が・・・独占し」と書かれていました、10農協といっても、47都道府県をブロック分けした、広範囲にわたる組織で実際には下記の割り振りになっています。

1.ホクレン農業協同組合連合会(北海道)。
2.東北生乳販売農業協同組合連合会(青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島)。
3.北陸酪農業協同組合連合会(新潟、富山、石川、福井)。
4.関東生乳販売農業協同組合連合会(茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、山梨、静岡)。
5.東海酪農業協同組合連合会(岐阜、愛知、三重、長野)。
6.近畿生乳販売農業協同組合連合会(滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山)。
7.中国生乳販売農業協同組合連合会(鳥取、島根、岡山、広島、山口)。
8.四国生乳販売農業協同組合連合会(徳島、香川、愛媛、高知)。
9.九州生乳販売農業協同組合連合会(福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島)。
10.沖縄県酪農農業協同組合(沖縄)。

日本全国の酪農家は現在1万7000戸あって、年間に740万トンもの生乳が生産されています。これを取りまとめる団体を細かく作っていけばいくほど事務コストは増加し手数料なども増えていくことを考えると「10農協が独占」ではなく、効率性を優先して10主体に落ち着いたという言い方の方が正しいのではないでしょうか。

指定団体の果たしている重要な役割

指定団体とは、生乳の生産者である酪農家と、買い手である乳業メーカーとの間に入り、おカネの流れについても重要な役割を担っています。「指定団体制度ができる半世紀前には乳業メーカーも企業が乱立していました。当然、過当競争が起きてしまい、一部の零細な乳業メーカーは酪農家に対して手形の形で生乳代を支払いました。しかしそれが不渡りになり、乳業メーカーだけではなく酪農家も破産してしまったという事例も実際にあったのです。酪農家に代わって取引先の与信をし、代金決済を確実に行う指定団体の機能は、酪農家にとってなくてはならないものなんです」とある酪農関係者はいいます。こうした側面を知ると、指定団体を見る目が少し変わってくるのではないでしょうか?他に生乳の価格について理解しなければならないことがあります。生乳はバターやチーズ、ヨーグルトなどさまざま商品にもなりますが、一物多価といって、同じ生乳でも用途によって買い取り価格が変わります。飲用が最も高く、加工乳や加工製品用は低くなる。ただ、原料としては同じなわけで、生乳の支払いには国からの補給金とプール乳価制度というものが導入されています。補給金というのは、加工用を安くした分、飲用向けの生乳との価格差を埋めるため、国から補給されるもの。プール価格制度は、その地域の酪農家が出荷した生乳がどのような用途で販売されたとしても平等とし、生乳の販売代金と補給金をプールする。それを酪農家に対して、出荷量に一律の価格を掛け合わせて支払うという仕組み。この仕組みは、加工乳でも飲用乳でも酪農家に不公平はなく「痛みを分け合う」制度。しかし指定団体がもしなくなって個々の酪農家と乳業メーカーが個別に交渉することになったら、メーカーから問答無用で「あなたは加工用ね」と一方的に安い買取価格に決められてしまうかもしれずそれに逆らうことは、小さな酪農家の単位では事実上不可能です。指定団体とはこんな役割を担う存在で酪農家にとって商社機能と役場機能を足して合わせたような存在といえます。

 

「役場」と「商社」を足あわせた機能

酪農家は指定団体に販売を委託しますが、規制改革推進会議の答申を見ると、指定団体が酪農家の自由なビジネスを阻害しているというように読めます。しかし、実際にそのようなことはなく酪農家が自分の搾った生乳を指定団体に販売委託をする場合でも、全量委託か、一部販売委託、一部を自由にすることもできます。また牧草だけで育てたものや、乳脂肪の多いジャージー種の生乳であったりと、付加価値のついたものを通常より高い価格で販売委託をすることも可能です。生乳が売れないかもしれないというリスクを理解した上で乳業メーカーと直接の価格交渉をすることもできます。また、自分自身で牛乳や乳製品を製造・販売したいという場合は、指定団体から生乳を買い戻すという形で可能。ごく少数ですがこの方式で自分のブランドでの牛乳製品を販売する酪農家もいます。多く乳業メーカーは長期的で安定した取引を望んでおり、牛乳製品はスーパー店頭や業務用など含め、年間計画に基づいて販売されています。だから生産者と乳業メーカーの間も長期安定取引が普通で、この場合、農家が個人で取引交渉をするよりも、指定団体のように多くの酪農家の力を集合させた団体のほうが、交渉力を含め必要性が高まるのは当然のことであるといえます。

宮崎県の酪農家L氏のインタビュー

「僕ら、民間のメーカーを立ち上げて出荷したいなどという気持ちはありません。指定団体に手数料を取られるということに不満に思う人がいるかもしれないけど、それなら自分でプラントを持ってメーカーに独自に販売すればいいでしょう。でも生乳には設備も必要です。先日の熊本震災のとき、熊本の乳業メーカーである酪農マザーズの設備も被災してしまい、酪農家は出荷できなくなりました。そこで急きょ、熊本の生乳を九州各地の生乳加工施設に振り分けました。それが迅速にできたのは、九州の指定団体がひとつにまとまっていたからです。もし小さな民間団体がいくつもあった場合、取引先が限られていたり、代金決済が複雑になったりして、スムーズに進まなかったでしょう」

(引用)

熊本震災の際には生乳の受け入れ先の乳業メーカーが被災したことで、震災から2日間は酪農家が搾った生乳を廃棄。しかし一部を除き3日後には出荷が再開され、県内外の業者が生乳を引き受け、被害が最小限になったのは、指定団体や乳業メーカーが協調して事に当たったからだとされています。

まとめ

こういう指定団体を農協グループが独占しているのを廃止して、自由な風を制度の中に入れようというのが今回の規制緩和の流れですが、はたしてそれは酪農家にとっていいことなのでしょうか?酪農家からすれば指定団体は役場と商社を足したような存在。今回の規制緩和を例えたら、私たちが市町村の役場から受けている行政サービスを民間企業に任せてしまえばいいと言っているようなもの。指定団体が行うのはさらに重要な、営業行為や代金決済です。検討をするのであれば、少なくとも多方面からの議論を尽くすべきですが、しかし驚くべきことに、規制改革推進会議のメンバーの中に、酪農のスペシャリストはほとんどいません。こうした状況でこの規制改革がなされてしまうと、国民にも害をなす可能性があり規制改革に期待される方向性とは逆に、重要な食品である牛乳・乳製品の生産と流通が混乱し、供給量が少なくなって価格が高くなってしまう可能性もないとはいえません。